前回マキタの記事を書いたら、今度は「そもそもエンジン式と電動式、結局どっちがいいんですか?」と聞かれました。
わたし自身は電動派です。でもそれは自分の好みの話。新人さんに勧めるなら、ひいき目なしで全部調べないとフェアじゃない。
というわけで、お金・手間・体への負担・仕事力・将来性まで10項目を徹底的に比べました。先に言うと、答えは「人と現場による」。でも、調べてみたら意外な事実がいくつも出てきました。
- エンジン式が有利:初期費用の安さ・連続して長く働ける持久力・硬い藪を強引に刈る粘りのパワー
- 電動式が圧勝:始動の楽さ・静かさ・振動の少なさ(健康)・排気ゼロ(ハウスOK)・メンテほぼ不要
- 💥 ランニングコストは「ほぼ引き分け」。「電動は維持費が安い」は実は神話でした(後で数字で)
- 💰 新人さんは 環境省の補助金 で電動の最大の弱点(高い初期費用)を消せる可能性大
前の記事でも書いたとおり、わたしはガソリンの管理が本当に苦手でした。混合油の調合、冬の燃料抜き…。ガソリンの携行缶を運んでいて、ガス抜き(空気抜き)の栓を開け忘れていて大変な目に遭ったトラウマもあります。だからスイッチ一発で静かに動く電動は、わたしには本当にラク。
電動を使っていると、よく「すぐバッテリー切れない?」「馬力が弱くない?」と聞かれます。わたしの現場では困っていません。でも、それも自分の感覚。本当のところはどうなのか、両方フェアに調べてみました。
00まず前提:cc と V のパワー対応表
比較の前に、ものさしを合わせます。エンジン式の力は排気量(cc)、電動式の力は電圧(V)で表されます。だいたいこのくらいが釣り合う、という対応表がこちら。
| パワーのクラス | エンジン式 | 電動式 | 対象の草の目安 |
|---|---|---|---|
| 軽量・家庭用 | 20〜23cc | 18V | 庭の草、柔らかい草、手入れ済みの畦 |
| 標準・農業用 | 25〜26cc | 36V(18V×2)/40Vmax | 農業現場の主流。伸びた硬い草、ススキ |
| 重作業・プロ用 | 30〜35cc以上 | 80Vmax 等 | 山林の下草、笹、ツル、親指大の潅木 |
← 表は横にスクロールできます
農業で使うなら「標準・農業用」(26cc = 36V/40Vmaxクラス)が基本線。この記事も、特に断りがなければこのクラス同士の比較で進めます。
01お金の話 ── 初期費用とランニングコストの真実
初期費用:エンジン式が有利
「作業を始められる状態にするまでの総額」で比べると、こうなります。電動はバッテリーと充電器が地味に効きます。
| 項目 | エンジン式 | 電動式 | 有利 |
|---|---|---|---|
| 本体(プロ向け) | 約5.2〜5.6万円 | 約3〜4万円 | 電動 |
| 始められる総額 | +燃料数千円で約6万円以内 | +バッテリー2個+充電器で約7〜10万円超 | エンジン |
※ここでのエンジン式の価格はプロ向け(共立など)の目安です。ものによっては、ホームセンターなどにもっと安いモデルもあります。
本体だけ見ると電動が安い。でも農業現場では充電待ちを避けるため予備バッテリーが最低2個必要で、急速充電器も要る。ここで一気に跳ね上がります。
ランニングコスト:ここが一番の驚き
「電動は電気代が安いから、長く使えば元が取れる」── わたしもそう思っていました。週10時間×年40週=年間400時間使う農家で試算した結果がこれ。
電気代はたしかにタダ同然(フル充電で数円〜十数円)。でもリチウムイオンバッテリーは消耗品。約700回の充放電で寿命です。2.5万円のバッテリーを使い切るコストを時間あたりに直すと…
- エンジン式の燃料代:1時間あたり 約100〜125円
- 電動式のバッテリー消耗:1時間あたり 約107〜115円(電気代はほぼゼロでも、これがかかる)
→ 年間400時間なら、エンジン約4〜5万円 vs 電動約4.3〜4.6万円。ほぼ引き分けです。
しかも電動は「数年に一度、バッテリー買い替えで数万円がドンと出る」という、資金繰り上の心理的な重さもある。ランニングで電動が劇的に得、ということはないと知っておくのは大事でした。
| ランニング | エンジン式 | 電動式 | 有利 |
|---|---|---|---|
| エネルギー代 | 混合油 1h 約100〜125円 | 電気代 1h 数円 | 電動 |
| 隠れた消耗品 | なし | バッテリー 1h 約107〜115円分 | エンジン |
| 年間(400h) | 約4〜5万円 | 約4.3〜4.6万円 | 引き分け |
02手間の話 ── メンテナンスと始動性
メンテナンス:電動はほぼフリー
エンジン式は燃料の品質管理とキャブレター(燃料と空気を混ぜる精密な部品)の保守が一番のハードル。とくに冬の長期保管前は、燃料を完全に抜いてガス欠で止める「儀式」が必須。これを怠ると春にエンジンがかからず、修理代が数千円〜1万円超…。まさにわたしが苦しんだところです。
電動はキャブもプラグもないので、掃除とギアへの注油くらい。ほぼメンテフリー。唯一の注意はバッテリーの保管(残量50%くらいで涼しい場所)だけ。
始動性:電動の圧勝
エンジン式は、ポンプを押して→チョークを閉じて→紐(リコイル)を勢いよく引いて…と手順が多く、寒い朝はとくにかかりにくい。手順を間違えると「プラグ被り」で全くかからなくなることも。
電動はバッテリーを挿してボタンを押し、レバーを握るだけ。1秒で最高速。氷点下でも関係なし。休憩のたびに気軽に止められるので、危ない「刃を回したまま放置」も減って安全です。
| 手間 | エンジン式 | 電動式 | 有利 |
|---|---|---|---|
| 日常の整備 | 燃料調合・フィルター・プラグ管理など多岐 | 掃除とギア注油程度 | 電動 |
| 長期保管 | 燃料を抜いてガス欠にする儀式が必須 | 残量50%で涼しく置くだけ | 電動 |
| 始動 | チョーク+紐引き。寒いと激むず | ボタン一発・腕力不要 | 電動(圧勝) |
03体の話 ── 重さ・騒音・振動・排気
重さ:実は総重量は同じくらい
意外でした。26ccエンジン式が約4.5〜5.0kg、電動も大容量バッテリー込みで約4.5〜5.5kg。重さ自体はほぼ互角。むしろエンジン式は重いモーターが手元(後方)にあり、燃料が減るほど軽くなるので、振り回しのバランスは少し有利。ただ最近の電動も「後端モーター方式」でこの差を詰めています(前の記事のMUR015Gなどがそれ)。
騒音・振動・排気:健康と近所付き合いで電動が圧勝
ここは電動の独壇場。エンジン式の強い振動を長年浴び続けると、指が白くなる「白蝋病(はくろうびょう=振動障害)」という職業病のリスクがあります。公的機関が連続作業時間に制限を設けているほど。
エンジン式は排気ガスが出るので、閉め切ったビニールハウス内で使うと一酸化炭素中毒の危険があります。ハウス内の除草は、排気ゼロの電動式一択。住宅街の近くや早朝の作業も、静かな電動なら騒音クレームになりにくい。
| 体・環境 | エンジン式 | 電動式 | 有利 |
|---|---|---|---|
| 重さ・バランス | 約4.5〜5.0kg・後方重心で振りやすい | 約4.5〜5.5kg・最近は後端モーターで改善 | エンジンやや有利 |
| 騒音 | 爆音。早朝・住宅街でクレーム源 | モーター音のみで静か | 電動 |
| 振動・健康 | 強い振動。白蝋病のリスク | 振動が少なく疲労・健康リスク減 | 電動 |
| 排気・屋内 | 排気あり。ハウス内は中毒の危険 | 排気ゼロ・無臭。ハウスでも安全 | 電動 |
04仕事力の話 ── パワーと持久力(あの疑問の答え)
ここが、わたしがよく聞かれる「馬力弱くない?」「すぐ切れない?」への答えになります。フェアに書きます。
パワー:通常作業は十分。でも「強引さ」はエンジン
最新の40Vmaxは26〜30ccエンジン相当のパワーまで来ていて、普通の農作業で「力が足りない」と感じる場面はほぼありません。「馬力が弱い」は、今となっては誤解です。
ただし電動は安全のため、硬い木や石に当たると基板を守るため瞬時に止まる(保護停止)。耕作放棄地や山林で「障害物ごと強引に粉砕して進む」野性的な突破力は、まだエンジンの粘りに分があります。
逆に電動だけの神機能が「逆回転(カラミトリ)」。ツルが絡んで止まったとき、ボタンひとつで刃を逆回転させて草を振り落とせる。エンジン式だと手でむしり取る作業を、数秒で復帰できます。これは地味に効く。
持久力:ここが電動の本当の弱点
正直に言います。「すぐ切れない?」は、半分当たりです。
メーカーのカタログ値(例:連続1時間20分)は「無負荷時」=空中で刃を回しているだけの数字。実際に密集した草を刈ると、過酷な条件では40分と書かれたものが20〜30分で切れることもあります。
しかも畑には電源がない。急速充電は高出力の電源設備が必要で、現実的じゃない。だから予備バッテリーを何個も用意するしかない。一方エンジン式は携行缶から1分で給油して、電源のない山奥でも1日中働けます。広い圃場の持久戦は、まだエンジンの独壇場です。
つまり、わたしが「困っていない」のは、わたしの現場の規模と使い方だから。広大な山林や耕作放棄地をずっと刈り続ける人には、わたしは正直にエンジン式を勧めます。
| 仕事力 | エンジン式 | 電動式 | 有利 |
|---|---|---|---|
| 通常のパワー | 十分 | 26〜30cc相当。普通の作業は十分 | 互角 |
| 重作業の粘り | 硬い藪も強引に突破 | 硬い物に当たると保護停止 | エンジン |
| 草の絡まり | 手でむしり取る | 逆回転ボタンで数秒復帰 | 電動 |
| 連続稼働・補給 | 携行缶で1分給油・1日中OK | 実負荷で短め・畑での充電は非現実的 | エンジン |
05未来の話 ── 業界の動向と「補助金」
数年先まで考えると、業界の流れと公的支援は無視できません。
象徴的なのがマキタ。2020年にエンジン製品の生産終了を発表し、2022年3月末でエンジン式草刈機の生産を完全終了しました。今は開発リソースを全部「充電式」に集中しています。共立やゼノアはまだ高性能なエンジン式を作っていますが、業界全体としては「脱エンジン」の流れは後戻りしない段階に入っています。
電動の最大の弱点は「初期費用の高さ(7〜10万円超)」でした。でもそこに、強力な国の支援があります。
環境省「農業機械の電動化促進事業」(二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金)。電動農機と、同等のエンジン式との価格差額の3分の2を補助してくれる制度です。
- 個人の農家も対象
- 電動の草刈機・刈払機も対象
- 令和7年度(2025年度)も募集(〜2025年12月19日まで/早期終了の可能性あり)
- 販売店による代行申請も可能
これを使えば、電動フルセットの実質負担をエンジン式と同等かそれ以下まで圧縮できる可能性が高い。これから揃える新人さんは、知っているだけで数万円変わります。
※補助金は募集期間・条件・予算が変わりやすいので、必ず環境省や農機具販売店で最新情報を確認してください。
06結論 ── あなたはどっちを選ぶべきか
10項目を並べて分かったのは、「どっちが絶対に上」は無いということ。あなたの農地の広さ・電源の有無・周りの環境・体力・補助金が使えるかで答えは変わります。タイプ別にまとめました。
- 広大な圃場・果樹園・山林を一人で管理する
- 電源のない場所で1日中刈り続ける
- 耕作放棄地の開拓や山の下草など重作業が多い
- 初期費用を抑えたい/自分でメンテする気概がある
- 中古での売却価値も重視する
- 機械いじりが苦手/腕力に自信がない
- ハウス内や住宅街の近くで作業する
- 静かさ・振動の少なさ・健康を大事にしたい
- 燃料管理や始動のストレスから解放されたい
- 補助金が使える環境にある
わたしは電動派。理由は体への負担と、あのガソリン管理から解放されたから。静かで、朝早くても気兼ねなく動かせるのも自然栽培の暮らしに合っています。
でも、広い山を持つ人にはエンジン式を勧めます。道具は「どっちが優秀か」じゃなく、「自分の現場に合うか」で選ぶもの。この記事が、あなたの最初の一台を選ぶ物差しになれば嬉しいです。
この記事について
専門的な情報は、AIによる詳細リサーチ(メーカー公式・農機具専門店・公的機関等を参照)の結果を、わたしが農家目線で整理し直したものです。価格・性能・補助金の条件は2025〜2026年時点で調べた目安で、時期や製品によって変わります。とくに補助金は募集状況が変動するため、購入前に必ず公式・販売店で最新情報をご確認ください。
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道具選びの話、まだ続きます。
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畑の作業の様子はYouTubeに全110本アーカイブ。